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山口地方裁判所岩国支部 平成7年(ヨ)3号 決定

債権者

祝島漁業協同組合

右代表者代表理事

山戸貞夫

債権者

河野太郎

久保信孝

河村長一

浜村柳次

右債権者ら訴訟代理人弁護士

本田兆司

桂秀次郎

債務者

中国電力株式会社

右代表者代表取締役

多田公煕

右訴訟代理人弁護士

末永汎本

江島晴夫

末国陽夫

主文

一  債権者らの本件仮処分申請をいずれも却下する。

二  申請費用は債権者らの負担とする。

理由

第一  申請の趣旨

債務者らは、別紙目録記載の海域(以下、本件調査海域という。)において、別紙「共第一〇七号共同漁業権海域内調査内容」と題する書面に記載された立地環境調査をなすことにより、債権者祝島漁業協同組合の共第一〇七号第一種及び第二種共同漁業権(山口県知事平成六年一月一日免許第一〇七号〜以下、本件共同漁業権という。)に基づく管理漁業権の行使、債権者河野太郎及び債権者久保信孝の右共同漁業権に基づく漁業操業、債権者河村長一の右共同漁業権及び許可漁業権(山口県知事平成七年四月二七日許可番号柳水第一〇九八号)に基づく漁業操業並びに債権者浜村柳次の右共同漁業権及び自由漁業権に基づく漁業操業を妨げてはならない。

第二  事実及び争点

一  前提となる事実

1  当事者

(1) 債権者祝島漁業協同組合(以下、債権者漁協という。)は、共第一〇七号第一種及び第二種共同漁業権(山口県知事平成六年一月一日免許第一〇七号〜以下、本件共同漁業権という。)を有する水産業協同組合法に基づき設立された法人たる漁業協同組合であり、債権者河野太郎(以下、債権者河野という。)、同久保信孝(以下、債権者久保という。)、同河村長一(以下、債権者河村という。)及び同浜村柳次(以下、債権者浜村という。)は、いずれも債権者漁協の正組合員である(当事者間に争いがない。)。

債権者河野が行っている主たる操業は、「たこ壺漁」、同久保が行っている主たる操業は、「建て網漁」、同河村が行っている主たる操業は、「かかり釣り漁」、同浜村が行っている主たる操業は、「太刀魚漁」(甲五ないし八)である。

(2) 債務者は、主に電気事業を業とする株式会社であり、本件調査海域において、原子力発電所建設のための立地環境調査を実施し、実施しようとしている(以下、本件立地調査という。〜当事者間に争いがない。)。

2(1)  本件共同漁業権の内容となっているのは「たこ壺漁」及び「建て網漁」であり(甲一)、同漁業権の範囲となっている海域は、別紙「共第一〇七号海域と本件海域」と題する図面上で赤線で囲まれた範囲であり、債権者ら(債権者漁協を除く。)は、右海域の全域で右各漁を行うことができる(甲一、乙三)。

(2) 債権者河村が行っている「かかり釣り漁」は、山口県知事の許可に基づくいわゆる許可漁業であり、その漁協範囲は、別紙「まきえづり漁業の漁業区域と本件海域」と題する図面上で青線で囲まれた範囲であり、その範囲は、本件共同漁業権の範囲を越えて山口県光市以東の山口県内海の全域に及んでいる(甲二)。

(3) 債権者浜村が行っている「太刀魚漁」はいわゆる自由漁業であり、その操業範囲については制限はない(当事者間に争いがないものとみなす。)。

3  本件調査の目的

本件調査は、「発電所の立地に関する影響調査及び環境審査の強化について」と題する昭和五二年七月四日付通産省省議決定及び「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境調査の実施について」と題する昭和五四年六月二四日付通産省資源エネルギー庁通達(五四資庁第八七七五号)により、債務者によって実施されるものである(当事者間に争いがない。)

4  本件立地調査の概要

債務者が本件調査海域において実施し、実施しようとしている調査内容は、別紙「共第一〇七号共同漁業権海域内調査内容」と題する書面に記載されたとおりであり(なお、定点連続観測の期間は一五昼夜である。)、その範囲と本件共同漁業権の範囲との対比は、別紙「共第一〇七号と本件海域」と題する図面に示されたとおりである(甲一〇、乙一、三)。

5  本件立地調査と関係漁協の対応

(1) 債務者は、債権者漁協を含む隣接八漁協(本件共同漁業権の共有主体である光、牛島、田布施、平生町、室津、上関、四代及び祝島の各漁業協同組合)に対し、本件立地調査をなす旨の申し入れを行い、これを受けて、右八漁協が、平成六年一月一日締結した共第一〇七号第一・第二種共同漁業権行使契約(以下、本件共同管理権行使契約という。)に基づき設置した各漁協の代表者一名により構成する共同漁業権管理委員会(以下、共同管理委員会という。)は、同年八月一一日本件立地調査に同意する旨の決議を行った(以下、本件同意決議という。〜当事者間に争いがない。)。

(2) 債権者漁協は、債務者の右申し入れに対し、本件立地調査の実施に反対する旨の決議を行い(甲四)、併せて、当庁に対し、右共同管理委員会の同意決議が無効であること等を求める訴訟(当庁平成六年ワ第一三九号)を提起した(当事者間に争いがない。)。

(3) 債務者と共同管理委員会、四代漁協及び上関漁協は、平成六年九月一日、協定を締結し(以下、本件同意協定という。)、右協定書第1条には「共同管理委員会、四代漁協及び上関漁協は、債務者が平成六年三月三〇日付けをもって申し入れた上関原子力地点に係る立地環境調査の実施について同意する。」との、第2条1項には「債務者は、調査の実施に伴う迷惑料及び協力金として、共同管理委員会、四代漁協及び上関漁協に対し総額一億八一二〇万円を平成六年九月二日に支払う。この金員には、共同管理委員会及び共同管理委員会を構成する各漁業協同組合の連絡・調整等の事務費用を含むものとする。」との、第3条1項には「債務者は、調査の実施により漁業操業に及ぼす迷惑を事情の許す限り少なくするよう配慮するとものとし、共同管理委員会、四代漁協及び上関漁協は、調査が円滑に実施できるよう配慮するものとする。」との各記載がある(甲九)。

6  債務者の占有許可の取得

債務者は、本件海域内で、定点連続観測の流況調査を行うための流向流速計を設置する目的で、平成六年九月一三日山口県知事に対し、一般海域の占用許可を申請し、同年一一月七日、占有期間を平成七年一月九日から同八年一月八日まで、占有面積を二万五〇五四平方メートルとする占有許可を得た(以下、本件占有許可という。〜乙二)。

7  本件立地調査の実施

債務者が、本件海域で既に実施した本件立地調査は次のとおりである(年はいずれも平成七年である。〜乙一六)。

(1) 春季定点連続観測による流況調査

三月二三日、二四日 流向・流速計の設置

三月二五日〜四月一〇日(三月三〇日を除く) 流向・流速計の点検

四月一一日 流向・流速計の撤去

(2) 夏季定点連続観測による流況調査

七月二〇日 流向・流速計の設置

七月二一日〜八月四日 流向・流速計の点検

八月五日 流向・流速計の撤去

(3) 春季測流板追跡調査による流況調査

四月一日及び四月三日

(4) 夏季測流板追跡調査による流況調査

七月二七日

(5) 春季水温・塩分分布調査

四月二日及び四月五日

(6) 夏季水温・塩分分布調査

七月二八日

(7) 春季水質・底質調査

四月一五日及び四月一六日

(8) 夏季水質・底質調査

七月二七日及び七月二八日

(9) 春季海生生物調査

四月一日〜一七日(九日、一二日及び一四日を除く)

(10) 夏季海生生物調査

七月二五日〜八月六日

(11) 深浅測量

二月一四日〜二月二七日(一九日、二一日、二五日及び二六日を除く)

三月一日〜三月一五日(四日、五日及び一〇日ないし一二日を除く)

三月二七日〜四月六日(三〇日及び二日を除く)

二  争点

1  債権者らには、本件立地調査の差し止めを求める根拠となるいかなる権利があると認められるか。

(債権者らの主張)

(1) 人格権(ただし、債権者漁協を除く)

憲法一三条は、国民の幸福追求権を規定している。したがって、人は、人間として生存する以上、平穏で自由で人間たるにふさわしい生活を営むことも最大限尊重されるべきであって、憲法二二条に保障する居住、職業選択の自由、二五条に保証する生存権も反面からそれを裏付けている。このような個人の居住、職業、生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体を人格権ということができる。

そして、右の人格権を侵害する行為に対しては、これを妨害排除し、また、この妨害を予防する請求権が認められる。

債権者ら(債権者漁協を除く。)は、豊かな水産資源に恵まれ、穏やかな海と緑に囲まれた祝島で出生し、同島付近で漁を行うことにより、平穏に生活してきたものである。

それゆえ、右債権者らは、本件立地調査が右人格権を侵害する場合には、人格権に基づき、右立地調査の差し止めを請求することができる。

(2) 本件共同漁業権

① 債権者漁協は、本件共同漁業権を有する。そして、漁業法二三条は、漁業権は物権とみなす旨を規定しているのであるから、債権者漁協は、本件立地調査が本件共同漁業権の内容となっている漁業操業を妨害する場合には、右権利に基づき、右立地調査の差し止めを請求することができる。

② 債権者漁協を除く債権者らは、漁業法八条により、本件共同漁業権の範囲内において漁業操業を行う権利(以下、漁業行使権という。)を有する。そして、漁業行使権は、共同漁業権それ自体ではないとしても、漁業権から派生しこれを具体化した権利であるから、共同漁業権と同様に物権的性格を有するから、本件立地調査が右債権者らの漁業行使権に基づく漁業操業を妨害する場合には、右権利に基づき、右立地調査の差し止めを請求することができる。

(3) 許可漁業権及び自由漁業権

「漁業権」は、漁業法により創設された権利ではなく、歴史的に形成されてきた漁業操業を行う権利である。そして、本件共同漁業権に規定された魚種や漁法に照らすと、これに規定されたものだけが漁業でないことは公知のことであるから、本件共同漁業権は、その規定する漁業以外の漁業を当然の前提としていることは明らかであり、「許可漁業権」や「自由漁業権」に基づき行われる漁業操業も、また、本件共同漁業権を前提とする漁業である。したがって、「許可漁業権」や「自由漁業権」も本件共同漁業権と同様に物権としての法的性質を有すると解すべきであるから、本件立地調査が、右各権利に基づき行われる漁業操業を妨害する場合には、右各権利に基づき、右立地調査の差し止めを請求することができる。

(債務者の主張)

「認可漁業権」及び「自由漁業権」は、漁業法に規定する共同漁業権とは権利の性質を異にする権利であり、物権的請求が認められないのは明らかである。

2  債権者らの妨害排除及び妨害予防請求権の行使は、本件同意協定の効力により妨げられるか。

(債務者の主張)

本件同意協定第1条、第3条1項により、共同管理委員会は本件立地調査の実施に協力する義務を負う。

ところで、本件共同漁業権行使契約第2条4項は、「漁業の行使方法、制限事項及び増殖事業等並びに土砂採取及び水面占有等について、共同管理委員会において協議決定するものとし、各組合はその決定事項を忠実に履行するものとする、」と規定されている。

したがって、債権者らは、共同管理委員会が締結した本件同意協定を忠実に履行すべき義務を負うことになるから、本件共同漁業権に基づく妨害排除及び妨害予防請求権の行使は許されない。

(債権者らの主張)

共同管理委員会は、共同漁業権の適切な管理及び行使を図るために組織されたものであり、また、右委員会は、漁協の代表者個人によって構成され、同人らは漁業権利者として漁業権の処分権限を有するものではない。

本件立地調査は、明らかに漁業操業を妨害するものであるから、これに同意することは漁業権の変更に該当する事項として、右委員会の権限を超えた事項である。したがって、本件同意協定の効力は債権者らには及ばない。

3  債権者らの妨害排除及び妨害予防請求権の行使は、本件占有許可の効力により妨げられるか。

(債務者の主張)

物権的請求権の行使が認められるためには、物権の侵害状態が客観的に違法と評価されるものであることを要し、右請求権の相手方が正当な権利を有し、これに基づき当該行為を行っている場合には、物権的請求権は発生しないと解せられる。

そして、債務者は、本件立地調査を行うにつき、本件占有許可を得ているのであるから、いわば正当な権利に基づき、右調査を行うものである。

したがって、債権者らが、本件立地調査に対し、本件共同漁業権に基づき妨害排除及び妨害予防請求権を行使できるいわれはない。

なお、債権者らは、本件占有許可処分が違法であると主張するが、右許可は行政処分であり、これが取り消されない限り、いわゆる公定力により、適法とみなされることはいうまでもない。

(債権者らの主張)

債務者が本件占有許可を得たことが、債権者らの有する本件共同漁業権に対抗できる占有権限を形成するものではない。したがって、本件占有許可を得たことをもって、物権的請求権の行使に制約が課せられるいわれはない。

4  本件立地調査が債権者らの漁業操業に与える影響及び損害はいかなる程度か。

(債権者らの主張)

(1) 総論的主張

① 本件調査海域は、本件共同漁業権の範囲内でも、債権者らの主要漁場となっている海域である。そして、本件調査は、機器を固定して行う流況調査と船を利用して行う測流板追跡調査等に大別されるが、いずれの調査についても、債権者らが使用する漁船との衝突の危険及び漁具破損の危険を内包し、債権者らの漁業操業に与える影響は甚大である。

② 本件同意協定により、債務者は、共同管理委員会、四代漁協及び上関漁協に対し、合計一億八一二〇万円もの金員を支払っている。右金員の趣旨が漁業補償であることは明らかであり、四代漁協の組合員はこのうち一人当たり約三〇数万円の配分を受けている。したがって、債権者漁協に対しても右基準を適用すると、本件調査が、債権者漁協組合員全体に与える損害は約二二〇〇万円となり、このことは債務者も認めざるを得ない。

(2) 各論的主張

① 船を利用して行う調査について

債務者が行う測流板追跡調査等の船を使用して行う調査は、その使用船舶が債権者らの使用船舶よりはるかに巨大であること、債権者らが原則として一人で操船していること、債務者の行う調査が債権者らの操業実態を全く調査せずに行われていることからすると、右調査がなされることにより船舶同士が衝突する危険は極めて高く、これを避けることに労力を費やすことが債権者らの漁業操業の支障となることは明らかである。

② 「たこ壺漁」について

Ⅰ 漁場と妨害ブイの位置関係

本件調査海域に定点測量のために設置される調査用ブイ(以下、これを単にブイという。)のうち、別紙平面図赤丸地点No.1、2、3、5、7の各ブイ(以下、ブイの地点を示す場合は別紙平面図の赤丸地点の番号で示す。)を含む地点は、たこ壺漁の好漁場である。内でも、No.2、3、5の各ブイ地点は好漁場で、債権者漁協の組合員は、漁具を入れる場所をくじ引きで決め、自由に漁具を入れることを禁止し、組合員間の調整を図っているほどである。

Ⅱ 妨害の現状

別紙「タコつぼ漁の漁労範囲及び影響図」と題する平面図(甲二九の一を当裁判所において縮小した略図)の赤色で囲まれた範囲は、ブイの設置により漁業操業が直接影響を受ける範囲であり、黄色で囲まれた範囲は、赤色の範囲で漁業操業ができないため、漁具を他の地点に入れた場合に漁具が重なって毀損したり、同業者の操業が阻害される範囲を示したものである。

債権者河野は、No.5のブイ地点に二組一本一六〇〇メートルの漁具を二本入れていた。しかし、債務者が右ブイを設置したため、内一本の漁具を引き上げることができず、そのまま放置せざるを得なかったし、本件立地調査中は、二本のうちの一本の漁具を入れることができなかった。

また、No.2地点にブイが設置されたため、四組一本(三二〇〇メートルの長さ)の漁具を入れて操業していたが、本件立地調査中は、右ブイがある地点にかかる一組の漁具を引き上げられず、他の三組の漁具の引き上げにも非常な困難を来した。

Ⅲ 債権者河野の損害

定点測量調査が実施される期間が八〇日間であり、この期間中No.5地点のブイにより二組各一本とNo.2地点のブイにより四組一本の内の一組の漁具が使用できなくなる。ところで、漁獲高は、漁具を三日間で引き上げるとして、四組のうちの一組で三万円であるから、八〇日間で二七回操業が不可能になるのであるから、総損害額は、約一〇〇万円となる。

なお、債権者河野以外の債権者漁協組合員にも同額の損害が生じることはいうまでもない。

以上のとおり、No.1、2、3、5、7の各地点にブイが設置されることにより「たこ壺漁」が不可能となり、操業が困難となった。

③ 「たて網漁」について

Ⅰ 漁場と妨害ブイの位置関係

No.1のブイが設置された地点は、たて網漁の漁場となっている。

Ⅱ 妨害の現状

たて網漁は、一二〇〇メートルないし一八〇〇メートルのたて網を海中に入れ操業する漁法であるから、網が潮に流されることを予測し、網が浮きなどに引っ掛かって毀損しないように海に入れることになる。しかも、潮の流れによっては、網が五〇〇メートルも流されることがあり、その間に浮きなどの妨害物があれば、漁網が毀損されることになる。

以上のとおり、No.1地点のブイが「たて網漁」の妨害となることは明らかである。

④ 「太刀魚漁」について

Ⅰ 漁場と妨害ブイの位置関係

本件調査海域の全域が太刀魚漁の好漁場となっている。

Ⅱ 妨害の現状

別紙「たちうお漁の漁労範囲及び影響図」と題する平面図(甲三〇の一を当裁判所において縮小した略図)で赤色で囲まれた範囲が、ブイの設置により、漁業操業が妨害される範囲である。

現に、No.1及び7のブイのために、漁具が引っ掛かり、毀損される事故が発生している。しかも、本件調査海域は、債権者漁協の組合員にとって重要な漁場であることから、三〇人の同業者が同一時期に操業することになり、他船との衝突の危険性が高くなる。

債権者浜村は、ブイ(No.10、11を除く)の設置により、漁業操業を休んだり、操業しても十分な操業ができなかった。

Ⅲ 債権者浜村の損害

債権者浜村は、夏季調査中、二、三日休業し、その他の操業日も約三〇〇〇円程度漁獲量が減少したのであるから、一日七〇〇〇円の所得があるとして、この期間の稼働日を一五日とし、約五、六万円の損害が発生した。太刀魚漁の魚期は夏季と秋季であるから、その損害額は金一〇万円を下ることはない。

なお、債権者漁協の組合員のうち太刀魚漁に従事するものは三〇名であるから、その損害額の合計は三〇〇万円となる。

以上のとおり、本件調査ブイが、「太刀魚漁」の妨害となることは明らかである。

⑤ 「かかり釣り漁」について

Ⅰ 漁場と妨害ブイの位置関係

かかり釣り漁にとって最適な漁場はごく限定されたものであり、No.2ブイ地点は、債権者漁協の組合員にとって最良の漁場である。

Ⅱ 妨害の現状

かかり釣りは、別紙「かかり釣漁参考図B」と題する平面図(甲三一の四を当裁判所において縮小した略図)に示すとおり、操業の地点で潮の流れに直角に三〇〇メートルの間隔で錨を二本打って漁船を固定しつり糸を流して魚を釣る漁法である。No.2のブイが設置された場合には、ブイの端から半径一三五メートルの範囲は漁具が引っ掛かり操業できないことになる。また、右地点での操業が不能となると、他の漁場が過密化し、操業できない組合員が出てくる。

Ⅲ 債権者河村の損害

債権者河村は、No.2地点のブイにより、この地点での操業が不可能となった。同人の漁獲高は一日一万円であるから、その総額は八〇万円となる。

なお、右ブイにより操業できなくなる債権者漁協組合員は五名であるから、その総損害額は四〇〇万円となる。

以上のとおり、No.2地点のブイがかかり釣りの漁業妨害となることは明らかである。

(債務者の主張)

(1) 本件共同漁業権の範囲と本件調査実施範囲との対比

① 本件共同漁業権が認められた範囲の面積をプラニメーターで算出した値は、約四億五〇〇〇万平方メートルであり、本件調査海域全体との対比は、別紙「共第一〇七号と本件海域」と題する図面に示されたとおりであり、右調査海域の面積が約二〇〇〇万平方メートルであることからすると、これが本件共同漁業権の範囲に占める面積割合はわずか4.5パーセントにすぎない。

② 本件占有許可に伴う占有面積(すなわち、機器を固定して行う流況調査のためにブイを設置することにより占有することになる面積)は、別紙「調査に伴う海域占用面積」と題する書面に記載したとおり二万五〇五四平方メートル(これは最大範囲であり、実際はこれを大きく下回る。)となり、これを本件共同漁業権の範囲と対比すると、その面積比率は0.006パーセントとなるにすぎない。

(2) 調査方法と操業に対する影響

① 機器を固定して行う流況調査は、四季別に年四回、流れの方向及び速さを一五昼夜連続して観測するものであるから、機器の設置及び撤去に要する日数を含めても、年間約八〇日程度、当該海域を占有するのみである。また、調査のための機器を設置するにあたっては、事前に共同管理委員会等の関係先に周知徹底を図ったうえで行うこととしているのであるから、特段債権者らの漁業操業に影響を及ぼすものではない。

② 次に、船を利用して行う調査は、本来航行が自由な海上で船舶を航行させながら行うものがほとんどであり、測流板追跡調査、水温・塩分分布調査・水質・底質調査及び海生生物調査は、四季別に各季一回あたり一日ないし二週間程度実施するものである。また、深浅測量は、水深及び位置などを測定する機器を搭載した船数隻を使用して、測線間隔一〇ないし五〇メートルで実施するものであり、調査期間は述べ二ないし三か月程度である。また、船の航行上にたて網等がある場合は迂回して測深し、周辺の調査結果により補完することも可能である。したがって、船を使用して行う調査が何ら債権者らの漁業操業に影響を及ぼすものではない。

(3) 債権者らの操業実態からみた影響

債権者らは、本件調査海域が、債権者らの極めて重要な主漁場であり、生命線ともいえる海域であると主張する。

しかし、債務者の行った操業実態調査の結果によると、右主張は著しく事実と相違している。

さらに、債権者らの漁法は、どの漁をとっても、ブイが設置された場所を避けても操業できるものであり、本件調査の実施は、債権者らの漁業操業を直接妨害するものではない。

(4) 本件同意協定の締結により支払われた金員の性質について

本件立地調査に伴う迷惑料及び協力金は、共同管理委員会らとの交渉の結果総額において妥結したものである。その内容は、調査に伴う漁業操業の妨害あるいは漁業権侵害に対する漁業補償ではなく、過去一二年間にも及ぶ原子力発電所問題に関する会合等への出席に伴う費用弁済的な性格をもった迷惑料と調査を円滑に行うための協力金などであり、債権者らの主張は的外れである。

5  共同漁業権等本件で債権者らが差し止めの根拠として主張する権利の性格とこれにより差し止め請求が認められるために必要な侵害の程度

(債務者の主張)

(1) 本件共同漁業権(他の権利はいうに及ばず)は、所有権のように海洋水面を排他的に支配占有する権利ではなく、公共の福祉、水面の総合的利用という観点から、他の者が海域を利用することによる不便性を容認しなければならないという内在的制約をもった権利である。したがって、他の者による水面の利用等が漁業権の範囲に及ぶとしても、そのことのみで妨害排除等を請求することはできない。これを認めるなら、他の漁業権者と利害が衝突し、あるいは漁業以外の船舶運行その他の利用者との調整もできなくなるからである。

このような権利の性質に鑑みれば、漁業権者が妨害排除を求めうるのは、他の者の水面の利用が「直接漁業操業を妨害する形態でなされる場合」、そうでなくても「相当な注意を欠いて行われるとか、または、故意に漁業権に顕著な損害を及ぼすような方法をもってなされ、その結果として漁業権に基づく漁獲に相当な影響を与えた場合」のように、極めて限定された事例に限られる。

(2) これを本件についてみると、債務者の調査は、本件占有許可を得たうえで行われる正当な権利行使であるうえ、その調査方法、内容、範囲、期間等からみて、債権者らの漁業操業を直接妨害するかたちとか、故意に顕著な損害を与える方法でなされたものでないことは勿論のこと、事前に調査の内容、時期を知らせるなどして、細心の注意をもって行われているものである。したがって、本件立地調査は債権者らが有する漁業権等の権利を侵害するものではない。

(3) 仮に、百歩譲って、債権者らが主張するとおり、調査ブイを避けて操業することにより、債権者らの漁業操業に支障があるとしても、その影響は軽微なものであること、しかも、その影響は一時的なものであり恒常的なものではないこと、そのうえ、漁業方法の工夫や操業場所のわずかな移転により漁獲量の減少は極めて僅少なものにとどまること、そして、漁業権が前記のとおり内在的制約を有する権利であることからすると、債権者らが蒙る損害は、受忍限度内にあることは明らかであるから、妨害排除請求権等を根拠に本件立地調査の差し止めを求めることはできない。

(債権者らの主張)

(1) 共同漁業権は、土地所有権と同様絶対的な性格を有する権利であり、許可漁業権及び自由漁業権も本件共同漁業権が前提とする漁業である限りにおいて同様な性格を有する権利である。

(2) 債権者らが、本件立地調査により蒙る被害は、前記4の(債権者らの主張)で述べたとおり、甚大なものである。債務者は、前記迷惑料の支払からも明らかなとおり、本件調査海域が債権者らの主要漁場であり、右被害が莫大なものであることを十分認識しながら、あえて本件立地調査を強行しようとするものである。しかも、本件立地調査は、原子力発電所建設の準備的な行為にすぎず、右建設の見通しが全くたっていない現時点においては、その必要性や緊急性が皆無な行為であることからすると、右行為は、債権者漁協を混乱に陥れ、債権者らの漁業操業を妨害する意図を有する悪質な意図的行為である。

(3) 債権者らは、このような立地調査を同意したこともなければ、債務者に債権者らに対抗できる権利が設定されているわけでもない。したがって、債権者らが、これにより蒙る損害を受忍しなければならない理由は全くなく、これが受忍限度内であるとの債務者の主張は、詭弁というほかない。

第三  争点に対する判断

一  争点1につき判断する。

1  人格権が本件立地調査の差し止めを求める根拠となる権利といえるかにつき判断する。

(1) 一般論として、債権者漁協を除くその余の債権者らが人格権を有すること、この権利を侵害する行為に対しては妨害排除及び妨害予防請求権が認められることは債権者らの主張するとおりである。

(2) しかしながら、本件立地調査の概要及び既に実施された調査内容は、前記第二の一4及び7で認定したとおりであり、また、債権者らが主張する本件立地調査が債権者らの漁業操業に与える影響及び損害は、それ自体から判断しても、人格権の内容となる人の生命身体及び居住環境らに影響を与えるものでないことは明らかである(人格権の内容に債権者らが主張する職業選択の自由が含まれるとしても、本件立地調査の期間、程度からみて、これを侵害するものでないことは明らかである。)から、人格権が、本件立地調査を差し止める根拠となり得るとする債権者らの主張は失当である。

2  本件共同漁業権が本件立地調査の差し止めを求める根拠となる権利となるといえるかにつき判断する。

債権者漁協が本件共同漁業権を有すること、その余の債権者らが、債権者漁協の組合員であることは、前記第二の一1(1)で認定したとおりである。

右事実によると、本件立地調査が、債権者らに与える被害、影響如何によっては、債権者漁協は本件共同漁業権に基づき、その余の債権者らは漁業行使権に基づき(右権利の性格については後に詳述する。)、本件立地調査の差し止めを請求することができる。

3  許可漁業権及び自由漁業権が本件立地調査の差し止めを求める根拠となる権利といえるかにつき判断する。

債権者らは、許可漁業権に基づき行われているかかり釣り漁及び自由漁業として行われている太刀魚漁も、本件共同漁業権が前提とする漁業であると主張するが、右主張のうち、「前提とする」との趣旨は不明であり、かかり釣り漁及び太刀魚漁が、本件共同漁業権の内容となっている漁業操業でないことは甲一号証により明らかである。したがって、右債権者らの主張は採用できない。

しかし、当裁判所は、許可漁業として行われているかかり釣り漁及び自由漁業として行われている太刀魚漁も、その漁業操業が妨害される程度如何によっては、妨害排除等の請求をなし得る余地がないではないと解する。

すなわち、公共用物たる公有水面に対しては、何人も、他人がこれを使用することにより得られる利益ないしこれを使用する自由を侵害しない程度において、自己の生活上必須な行動を自由に行い得る使用の自由を有してると解するのが相当であり、この自由使用の利益は、公法関係から由来するものであるとはいえ、これがある人にとって日常生活上諸般の権利を行使するについて欠くことのできない要具である場合には、これに対しては民法上の保護が与えられ、この利益が妨害されたときは民法上不法行為の問題が生じ、この妨害が継続するときは、その排除を求める権利を有するものと解するのが相当だからである(最高裁昭和三九年一月一六日判決・民集一八巻一号一頁参照)。

これを本件についてみると、甲七、八、債権者浜村、同河村各本人尋問の結果によると、本件調査海域を含む近海において、債権者浜村は太刀魚漁を、債権者河村はかかり釣り漁を、いずれも何十年にもわたり営み、これを唯一の収入源として生活してきたことが一応認められるのであるから、右債権者らが本件調査海域を含む公有水面を使用することにより得られる利益は、生活上欠くことのできない要具であると認めるのが相当である。

したがって、自由漁業としてなされる太刀魚漁、許可漁業としてなされるかかり釣り漁のいずれについても、本件立地調査がこれらの漁業操業を妨害する程度如何によっては(右妨害が本件共同漁業権に対する妨害よりも著しい程度に達することが要件となるとしても)、右債権者らは、これを差し止める権利を有するものというべきである。

これに反する債務者の主張は採用しない。

二  争点2につき判断する。

1  債務者と共同管理委員会の間で本件同意協定が締結されたこと、右協定の第1条には「共同管理委員会が債務者の申し入れた上関原子力地点に係る立地環境調査に同意する。」旨が、第3条1項には、「共同管理委員会は、立地調査が円滑に実施できるよう配慮する。」旨が各定められていることは、前記第二の一5(3)で認定したとおりである。したがって、共同管理委員会は、本件立地調査の実施に協力する義務を負うことが認められる。

そして、乙九によると、本件共同管理権行使契約第2条4項には、債務者が主張するとおりの文言が規定されていることが一応認められる。

2  共同管理委員会が、債務者の本件立地調査の実施申し入れにつき、債権者らを拘束する趣旨でこれに対する同意決議をなし得る権限を有しているか否かはともかくとして、本件同意協定が債権者らに対し直接効力を生じるためには、共同管理委員会は、債権者漁協及びその余の債権者らから、本件同意協定をなす代理権あるいは債権者らが有する権利についての包括的な処分権限の授与を受けていることが必要であると解せられる。

しかるに、共同管理委員会が、右各受権を得ていることについては、その主張も、疎明もなく、本件共同管理権行使契約の各条項にも、これを定めた規定は見あたらない。

したがって、仮に、本件立地調査に対する同意が漁業権の変更に該当せず、また、共同管理委員会が右同意をなす権限を有しているとしても、債権者らが、共同管理委員会に対する関係で本件同意決議の不遵守の責任を負うことはあっても、本件同意協定の効力が債権者らを直接拘束するとの法的根拠はないから、右協定の効力それ自体から、債権者らが有する妨害排除等の請求権の行使が許されないということはできない(もっとも、右協定が締結されたとの事実が、後の受忍限度等の判断において考慮される事情であるとはいえる。)。

よって、債務者のこの点に関する主張は採用できない。

三  争点3につき判断する。

1  債務者が本件占有許可を得たことは、前記第二の一6で認定したとおりである。右事実と乙二によると、債務者は、本件立地調査のうち、機器を固定して行う流況調査(定点連続観測による流況調査)のために、別紙平面図赤丸地点No.1ないし3、5ないし7、10ないし17の各地点の合計14の地点において合計二万五〇五四平方メートルの面積を有する公有水面を一年間にわたり継続的に使用する権利の設定を受けたことが一応認められる。

債務者は、右権利の設定を受けたことを理由として、本件調査のうち機器を固定して行う流況調査は正当な権利に基づくものであるから、債権者らが、これに対し妨害排除請求権等を行使することはできないと主張する。

2  確かに、債務者が、本件占有許可を得たこと(特許使用権を得たこと)により、公有水面の管理権者との関係で、その許可の内容に従って公有水面を使用できる権利を得たことしたがって、その占有が管理権者との関係で適法なものであることは疑いがない。

しかし、このことは、占有許可に基づく使用が私人たる第三者の権利を侵害する場合にまで、右使用を第三者との関係で適法とすることまでを意味するものではないというべきである。なぜならば、仮に、占有許可があったことが、私人との関係においても公有水面の使用を適法とするものとすると、債務者が、債権者らによる本件占有許可に基づく立地調査の妨害に対し、本件占有許可に基づき、債権者らの漁業操業の差し止めを求めた場合、債権者らは、本件許可と同じ公有水面の特許使用の性質を有する本件共同漁業権を得ていることを根拠とし、債務者からする妨害排除請求権の行使を妨げ得るとの不当な結果を招来することになるからである。

したがって、公有水面の使用権を得ている私人(これには、いわゆる自由使用を行っている者を含む)相互の関係においては、相互に他人の違法な妨害を排除する私法上の権能があり、その侵害の程度が一定の限度に達した場合には、妨害排除等の請求権の行使が許されると解するのが相当である。

よって、この点に関する債務者の主張は採用できない。

四  争点4につき判断する。

1  まず、個別漁業操業に与える影響を除き、本件立地調査が債権者らの漁業操業に与える影響の全体像につき検討する。

(1) 本件共同漁業権の範囲と本件調査海域及び本件占有許可により占有を認められた範囲の面積的対比について

乙一、二、一四、証人藤原茂範の証言によると、本件共同漁業権が認められた範囲全体の面積が約四億五〇〇〇万平方メートルであること、本件調査海域全体の面積が約二〇〇〇万平方メートルであること、本件占有許可を受けた面積が二万五〇五四平方メートルであること及び本件共同漁業権の範囲と本件調査海域とを図面上対比が別紙「共第一〇七号と本件海域」と題する図面のとおりであることが一応認められ、右事実によると、共同漁業権の範囲に占める本件調査海域の面積比は約4.5パーセントであり、本件占有許可を受けた面積比は約0.006パーセントであることが認められる。なお、乙三及び前記藤原証言によると、かかり釣り漁の許可範囲は、別紙「まきえづり漁業の操業区域と本件海域」と題する図面のとおりであり、と本件調査海域との面積比は約0.4パーセントであることが一応認められる。

(2) 本件調査海域は、債権者漁協の組合員の漁場全体にとってどのような意味を持つか(債権者漁協組合員の主たる漁場といえるか)。

甲四ないし八、一二、一九ないし二一、三三、三五、乙三、二〇、証人内藤末男(以下、証人内藤という。)、同福永正人(以下、証人福永という。)、同松中譲(以下、松中という。)の各証言、債権者漁協代表者山戸貞夫(以下、山戸貞夫という。)、債権者河野、同浜村、同河村各本人尋問の結果を総合すると、以下の事実が一応認められる。

① 債権者漁協の漁獲高のうち、本件調査海域で獲れる魚量がどれだけかを客観的に示す疎明資料は提出されていない。

② たこ壺漁について

債権者漁協に所属する組合員の内たこ壺漁を主に行っている組合員の数は、一〇名であり、その主な漁場は、本件調査海域内のほか、祝島周辺並びに宇和島及びホウジロ島周辺(この位置は、別紙「共第一〇七号海域と本件海域」と題する図面参照)である。各組合員が、右三か所でどの程度の漁獲高を上げているかは、債権者河野の供述によっても明らかでないことからすると、各場所での漁獲高は、三分の一を越えるものではないと判断するほかない。

③ 太刀魚漁について

債権者漁協に所属する組合員の内太刀魚漁を主に行っている組合員の数は、三〇名である。債権者浜村の供述によると、本件調査海域にその全ての人が出漁することもあるが、平均すると約一〇ないし一五隻が同海域で太刀魚漁を行っていることが一応認められることからすると、本件調査海域内の漁獲量は、太刀魚漁全体の半分を越えるものではないと判断することができる。

④ かかり釣り漁について

債権者漁協に所属する組合員の内かかり釣り漁を主に行っている組合員の数は、約五〇名である。そして、九、一〇月から三月(秋季から冬季)にかけての主なかかり釣り漁の漁場は、本件調査海域中でも、鼻繰島周辺及び現後鼻周辺に限定されており(別紙「かかり釣り漁の漁労範囲及び影響図」と題する図面〔甲三一の一を当裁判所において縮小した図面〕参照)、主に鯛、やず等の好漁場となっていることが認められる。ただし、かかり釣り漁は、祝島周辺の地先海域でも行われており、右場所との漁獲高の対比は不明であるので、仮に時期的に割り振るとすると、その漁獲高の約半分が本件調査海域内の漁獲高となることになる。

⑤ たて網について

債権者漁協に所属する組合員の内たて網漁を主に行っている組合員の数は一三名である。この内、本件調査海域内で操業している者及びその回数を明らかにする疎明資料はない。甲一二には、No.1地点のブイ付近を漁場としている旨が記載されているが、右記載は、甲三三及び証人福永の証言に照らして措信できない。

⑥ 債権者漁協の平成六年一年間の総漁獲高は、一億八二八一万三〇〇〇円である。この内、たこ壺漁の総漁獲高は三〇二五万四〇〇〇円、太刀魚漁の総漁獲高が八七一万五〇〇〇円である。かかり釣り漁の総漁獲高は、一本釣り漁の従事者が約九〇名でそのうち約五〇名がかかり釣り漁に従事していることからこれを案分すると、一本釣り漁の総漁獲高が五〇四五万一〇〇〇円であるからその九分の五である約二八〇二万円であると推定することができる。

これを右②ないし④で認定した割合を当てはめると、本件調査海域内での総漁獲高は、約二八〇〇万円となり、これは債権者漁協の総漁獲高の約一五パーセントとなる。

⑦ 右認定事実からすると、債権者漁協全体にとってはともかくとして、同漁協に所属する組合員のうち、たこ壺漁、太刀魚漁及びかかり釣り漁に従事する組合員にとっては、本件調査海域は、その主要な漁場の一つであることが一応認められる。

(3) 本件同意協定に伴い共同管理委員会らに支払われた金員の趣旨について

① 債務者が、本件同意協定の締結に伴い共同管理委員会、四代漁協及び上関漁協に対し、総額一億八一二〇万円の金員を支払ったこと、右協定書には、右金員の性質として迷惑料及び協力金と記載されていることは前記第二の一5(3)で認定したとおりである。

② ところで、証人内藤、福永、松中の各証言によると、四代漁協及び上関漁協に所属する組合員は、右金額の中から一人当たり三六万円を得ており、右金額は、共同管理委員会を構成する漁協の中で債権者漁協を除く他の五漁協の組合員の倍額であること、右各証人らは、右金額の趣旨を漁業操業への影響に対する迷惑料であると認識していることが一応認められる。さらに、乙七、八によると、本件同意協定の締結主体が共同管理委員会と四代及び上関漁協となっているのは、本件立地調査が行われる海域の内、本件海域を除く地先部分に、右両漁協がそれぞれ共第一〇一号及び共第九六号共同漁業権を有していることから、右漁業権の主体として本件同意協定に締結主体となる必要があったからであることが一応認められ、右事実を併せ考えると、前記金員の趣旨は、債務者が主張する会合等への出席に伴う費用弁済的性格あるいは本件立地調査を円滑に行うための協力金たる性格を含むものであるにせよ、その主な趣旨は、本件立地調査が漁業操業に与える影響に対する迷惑料であると一応認めるのが相当である(ただし、右金額が何らかの算定根拠に基づき算出された損害賠償金であるとまで認めることはできない。)。

(4) 右各認定事実からすると、本件調査海域の範囲が本件共同漁業権の範囲に占める面積割合は債務者の主張するとおりであるにしても、本件立地調査が債権者らの漁業操業に与える影響は、単純な面積比率によって想定されるそれより大きく、債務者自らもそのことはある程度は認識していたことが一応認められる。

2  そこで、本件立地調査の具体的態様とそれが債権者らの漁業操業に与える具体的影響につき検討する。

(1) 本件立地調査の実施計画及び既に春季及び夏季に実施された立地調査の内容は、前記第二の一4、7で認定したとおりである。

(2) 船舶を使用して行う調査について

船舶を使用して行う調査により、債権者の漁業操業が妨害を受けたことを認めるに足りる疎明資料はない。

のみならず証人松中、藤原の各証言によると、債務者は、船舶を使用して行う調査の際には、四代漁協所属の組合員の助けを借りながら債権者らの漁業操業を避けてこれを実施するよう配慮していることが一応認められること、債権者浜村が、本件調査海域で太刀魚漁を行う船舶は通常は一〇ないし一五隻であるが、三〇隻の全てが同時期に出漁することもあり、それでも漁を行うことが可能である旨を証言しているのと比較して、船舶を使用して行う調査で使用される船舶数は、最大でも四月一三日に実施された海生生物調査に使用された一六隻(作業船一四隻、警戒船一隻、自主監視船一隻)であると一応認められること(乙一六)等を併せ考えると、船舶を使用して行う調査が具体的に債権者らの漁業操業に妨害を与えるものとまでは認められない。

(3) 機器を固定して行う調査について

① 乙一、二によると、債務者は、本件占有許可により、本件立地調査のうち、機器を固定して行う流況調査のために、別紙平面図赤丸地点No.1ないし3、5ないし7、10ないし17の合計一四地点において合計二万五〇四五平方メートルの面積を有する公有水面を一年間にわたり継続的に占有する権利の設定を受け、右各地点において、四季別に一五昼夜連続の観測を行う予定であり(春季、夏季は既に実施済み)、このため、ほぼ各季二〇日間、右各地点にブイを設置し、別紙「調査に伴う海域占用面積」と題する書面に記載された形態で、海底にアンカーを打つ必要があることが一応認められる。

そこで、以下、右アンカーとブイを繋ぐロープが漁業操業に与える影響につき考える。

② たこ壺漁について

甲五、一九、二九の一ないし四、三五、証人松中の証言、債権者河野本人尋問の結果によると、以下の事実が一応認められる。

Ⅰ たこ壺漁は、原則として一本八〇〇メートルの幹綱を海底に沈め、これに一五メートルの間隔で付いている枝綱にたこ壺(餌入り)をつけて行う形態の漁法である。

たこ壷は、ほぼ三日に一回の割合で引き上げられ、たこ壺に入った蛸を漁獲する。

その漁期は、九月と一〇月を除く一〇か月である。

Ⅱ 債権者漁協の組合員が、本件調査海域内で行うたこ壺漁のうち、好漁業であるのは、別紙「タコつぼ漁の漁労範囲及び影響図」と題する図面中で赤色及び黄色で囲まれた範囲であり、中でもNo.2、3及びNo.5の各ブイを含む周辺部分は特に好漁場とされているので、No.2、3のブイを含む黄色部分には幹綱四本を繋いだ合計三二〇〇メートルの綱が約一〇〇メートルの間隔で一〇本(ただし、最も西側に入れられる綱は、南側基点が本件調査海域の南西角になるので、黄色部分には含まれず、本件調査海域内に存在する幹綱は、正確には五本程度となる。)入れ、No.5のブイを含む黄色部分には幹綱二本を繋いだ合計一六〇〇メートルの綱が同じく約一〇〇メートル間隔で四本入れられており、その位置は、たこ壺漁従事者のくじ引きで決定されている。

Ⅲ たこ壺漁の漁法上の制約から、ブイがあることにより、右図面中の赤色で囲まれた部分に幹綱を置くことは事実上不可能となり、したがって、債権者漁協組合員は、ブイが設置される期間中は、同部分に幹綱は入れることはないので、ブイにより設置できない幹綱の本数は、最大限に見ても、一〇本となる。

Ⅳ 既に実施された本件立地調査により、No.1、2、5の各地点で、ブイとアンカーを繋ぐロープと幹綱が絡まった事故がそれぞれ一回ずつ発生した。このうち、一回(No.5のブイの件)は、幹綱が引き上げられずブイが撤去されるまで放置する結果となり、漁獲した蛸は商品価値を失っていた。この事故は、いずれも幹綱を海底に入れた後にブイが設置された場合に生じたものである。

Ⅴ しかし、右組合員は、これまで幹綱を現に入れていた位置(すなわちたこ壺漁にとって最良の漁場)と各ブイとの位置関係が同図面のとおりであるか否かには疑問があること、さらに、ブイを避けて幹綱を設置することにより、そうしなかった場合との間でどれだけの漁獲高の減少が生じるかについてはこれを認めるに足りる疎明資料はないので、その意味からいうと、同漁協組合員の本来あるべき漁獲高(本件立地調査が行われない場合の漁獲高)が、各ブイの設置によりどれだけ減少するかの認定は困難である。

Ⅵ 債権者河野本人は、幹綱一本当たり(八〇〇メートル)の一回の漁獲高が三万円であると供述するが、同人の年収が六〇〇万円であるとの証言に照らして、右供述は到底措信できない。

右六〇〇万円の年収を前提とすると、No.5地点のブイの影響により二組の幹綱が設置できなかったとして(この幹綱を他の箇所には設置しないことを前提とする。)、漁業期間を三〇〇日、ブイ設置による影響を六〇日(九、一〇が休漁期であるので)、幹綱の引き上げ頻度を三日に一回、常時稼働幹綱数を一五本として、計算すると、債権者河野が機器を固定して行う調査により蒙る損害額は約一六万円となる。

(計算式 600万円÷300÷15×3×60×2÷3=16万円)

なお、他の債権者漁協組合員については、ブイにより幹綱を入れられない本数が最大でも一〇本であること、本件調査海域のみがたこ壺漁の漁場ではないことからすると、その損害を認定することは困難であるが、債権者漁協の平成六年一年間の総漁獲高が三〇二五万四〇〇〇円であること、たこ壷漁従事者が一〇名であることを前提に(他の条件は前記河野の計算値と同じとして)計算すると、その損害の総額は四〇万円となる。

(計算式 3000万円÷300÷150×3×60×10÷3=40万円)

③ 太刀魚漁について

甲八、二一、三〇の一ないし五、証人内藤の証言、債権者浜村本人尋問の結果によると、以下の事実が一応認められる。

Ⅰ 太刀魚漁は、約一五〇メートルの幹糸に三メートルの間隔で2.7メートルの枝糸を付け、その先に重り及び餌を付け、潮の流れの上から下に流れに直角に約五〇〇メートル余り微速前進させながらこれを投入し、約一〇分程度(約一〇〇〇メートル)漕ぎ、船を止めて引き上げる形態で行う漁法である。

その漁期は七月から一一月ころである。

なお、太刀魚漁では、右漁具が海底、海中の障害物に接触し、切れてしまうことがたまにあるため、各船は予備の漁具を積んで操業している。

Ⅱ 本件調査海域は、全体として太刀魚漁の好漁場となっている。

太刀魚漁は、右形態で行う漁法であるため、ブイが設置された場合は、右設置箇所から潮上一〇〇〇メートル×七〇〇メートルの長方形で囲まれた範囲のうちのある部分では操業が困難となる。債権者は、別紙「たちうお漁の漁労範囲及び影響図」と題する図面の赤色部分全体で操業ができなくなると主張するが、例えば、No.1地点のブイでいうと、潮が図面の上から流れるとすると、その影響範囲は、ブイから上の部分でありかつほぼ同図面上の黒斜線部分を除く部分であることが認められる。右限度では、債権者が主張する漁業操業に影響のある範囲が、同図面の赤色部分であることが認められる。

Ⅲ 既に実施された本件立地調査により、七月二一日No.1の地点ブイで、八月二日か三日にNo.7の地点ブイで、漁具がアンカーとブイを結ぶロープに引っ掛かる事故が発生した。

Ⅳ 債権者浜村は、夏季の機器を固定した流況調査の期間中、ブイによる影響のために二、三日休業し、その他出漁した日でも三〇〇〇円程度(通常の操業漁獲高は一日七〇〇〇円程度)の減少があったと供述する。しかし、太刀魚がそもそも回遊漁であることからして、Ⅱで認定した影響に照らすと、ブイの設置により一日の漁獲高の約半分が失われるとの右供述はにわかに措信できないし、また、本件調査海域以外にも操業場所があるにもかかわらず、ブイの影響のみで、二、三日休業したとの供述についても疑問の余地がある。

したがって、ブイの設置が漁業操業に支障があることは認められるにしろ、これにより、具体的に漁獲高の減少が生じるとの右供述には疑問があり、本件ブイの設置により債権者浜村に生じた損害がいくらであるかについてはこれを認めるに足りる疎明資料はないというほかない。

④ かかり釣り漁について

甲七、二〇、三一の一ないし四、証人松中の証言及び債権者河村本人尋問の結果によると、以下の事実が一応認められる。

Ⅰ かかり釣り漁は、船の前後から海底にアンカーを下ろし、潮の流れに逆らって船を固定し、活きたエビをポイントに届くよう撒餌し、魚を集め、そこに同じく活きたエビをつけた釣針数本を付けた釣糸を延ばして鯛などの高級漁を漁獲する漁法である(右操業形態は、別紙「かかり釣参考図B」と題する図面のとおりである。)。

Ⅱ 本件調査海域内のかかり釣り漁の主要漁場は、別紙「かかり釣漁の漁労範囲及び影響図」と題する図面で黄色に黒斜線が入った部分であり、鼻繰島周辺では、No.2ブイ地点周辺ほか二か所と現後鼻の付近の四か所に魚の根付くポイントがあり、九月から三月までは、特に好漁場となっている。なお、債権者河村は、No.2ブイが設置された地点が、右ポイントの真上であると供述するが、右供述は、債権者河村が正確にNo.2ブイ地点を認識しているのか否かにつき疑いがあること(債権者河村は今年No.2地点付近で操業していないのではないかと思われるふしがある。)及び証人松中の右ポイントはNo.2地点から西側にあるとの証言(債権者らはこの証言は、近年No.2地点でかかり釣漁を行っていないはずの松中の証言は措信できないと主張するが、同人が債務者の立地調査を度々手助けしていることが認められることからすると、むしろNo.2地点のブイの場所については河村よりも正確に認識している可能性が高い)に照らして、にわかに措信できない。

Ⅲ かかり釣の右漁業形態からして、魚が根付くポイントに近接してブイが設置されると、その箇所での操業は著しく困難となることは認められる。

Ⅳ 債権者河村は、一日当たりの漁獲高が一万円であると供述し、債権者らはこれに基づき、No.2地点のブイが設置されることにより五隻のかかり釣り漁の船が操業できなくなるとして、債権者河村の損害額は八〇万円、債権者漁協組合員五名の総損害額は四〇〇万円であると主張する。

しかし、この供述を前提としても、右漁期との関係で、被害が生じるのは六〇日であること、債権者河村は出漁日数を年二〇〇日と証言していることからすると、債権者河村の損害は、三三万円となること、No.2地点のブイの影響でこの地点での操業が不可能となったとしても、他のポイントでの操業が不可能となるわけではないこと、さらに、No.2地点ブイの位置が正確に前記ポイントになるか否かにつき疑いがあることは前記のとおりであることからすると、債権者らの右損害額の主張を認めるに足りる疎明資料はない(債権者河村本人も、自ら及び債権者漁協組合員のNo.2地点での損害額については明確な供述をしていない。)。

五  右四で認定した事実に基づき争点5につき判断する。

1  本件共同漁業権等の権利の性格について

本件共同漁業権が漁業法により物権とみなすと規定していることは債権者らの主張するとおりである。しかしながら、右権利が、公共用物の特許使用として設定された使用権であり、公共用物が、本来一般公衆の共同使用に供せられ(太刀魚漁が自由使用としてなし得ることの根拠もここにある。)、公共の福祉のために使われるものであることからすると、漁業権者といえども公有水面を完全に排他的独占的に使用することは、右公共用物としての性質に反するものというべきであり、したがって、漁業権が及ぶ範囲は、その使用目的達成のために必要な限度にとどまるものと解するのが相当である。

いわんや、許可漁業として行われるまきえ釣り漁及び自由漁業として行われる太刀魚漁については、他人の自由な共同使用を妨げない範囲及び方法により行われなければならないというべきである。

したがって、共同漁業権並びに許可漁業及び自由漁業を行う権利が、所有権と同様絶対的な性格を有する権利であるとの債権者らの主張は採用できない。

2  債務者が本件立地調査を行う意図について

債権者らは、本件立地調査はその必要性及び緊急性の全くない行為であり、これを現時点で強行するのは、債権者漁協を混乱に陥れ、債権者らの漁業操業を妨害する意図であると主張する。

しかし、その実現が可能か否かはともかく、債務者は本件海域に近接する地域に原子力発電所の建設を計画し、その実現の一過程として、通産省省議決定等に基づき本件立地調査を実施していることは審尋及び弁論の趣旨から認められるとしても、債務者が右意図を越えて、債権者らが主張する混乱あるいは妨害を意図していると認められる疎明資料はない。したがって、債権者らの右主張は採用できない。

3  債務者が本件立地調査を実施する態様について

債権者各本人尋問によると、債務者は、債権者各個人に対しては本件立地調査の内容を伝達する手段を講じていないことが一応認められ、また、債務者において、本件立地調査に備えて債権者らの漁業操業実態を調査し、その影響を少なくする手段を講じたと認められる疎明資料はない。

しかし、乙一八及び一九の各一、二によると、債務者も共同管理委員会を通じて不十分なものとはいえ最低限の調査内容の伝達を行っていることが一応認められること、共同管理委員会との間では本件同意協定を締結していること、そして何より本件立地調査に対する債権者らの対応からみて、債務者において右実態調査等を実施したとしても、債権者らがこれに応じなかったことは明らかであること、等からすると、債務者の右態度にもやむを得ないところがあるものというべきである。

4 右1ないし3で説示したことに加えて、債権者らが本件立地調査により蒙る損害が前記四で認定した限度にとどまっていること、右立地調査において債権者らの漁業操業に最も重大な影響を及ぼす機器を固定して行う流況調査については、漁業権と同様物権とみなされるものではないにしろ、同一の法的性質を有するいわゆる公共用物に対する特許使用権を生じさせる本件占有許可を得たうえで、右権利に基づき行われていること、本件立地調査の実施は一時的なものであり恒常的なものではないこと、等を併せ考えると、本件立地調査により債権者らの漁業操業に支障を来し損害が発生していることは認められるにしろ、また、債権者らが、同人らにとって自らの庭のごとき存在であり、しかも何代にもわたり自由に操業して自らの生活の糧を得ていた場所である本件調査海域において、同人らが反対する原子力発電所設置を前提とする本件立地調査を債権者漁協の個別同意なしに実施することが、あたかも「平穏な住居に無断で侵入するような暴挙」(債権者ら準備書面からの引用)であるかのように受け止める心情が理解できないではなく、このような精神的怒りや苦しみを考慮に入れても、なお、本件立地調査の実施により蒙る債権者らの被害の程度が、同人らが有する共同漁業権等に基づく差し止め請求を是認するまでに至っていると認めるのは困難である。

第四  結論

以上によると、債権者らの本件請求は、被保全権利についての疎明を欠くから、その余の点につき判断するまでもなく理由がないので却下し、民事保全法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を各適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官山本愼太郎 裁判官野々上友之 裁判官澤田正彦)

別紙〈省略〉

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